
JBBFのドーピング検査はどう変わった?12年分データで見る検査数・陽性率・簡易検査
日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)は、国内で数少ないJADA(日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施するボディビル団体です。 本記事では、JBBFが公開している事業報告書から2013年から2024年までの12年間のドーピング検査データを抽出し、調査件数や陽性者数の傾向などを調査していきます。
データソースについて
本記事のデータは主にJBBFが公開している各年度の事業報告書(PDF)から抽出しています。
- 事業報告書: https://www.jbbf.jp/Sokai/_Sokai.html
- 2021年度のみ事業報告書に検査人数の記載がなく、2021年度 JBBF競技会ドーピング検査一覧から抽出
1. JADAによるドーピング検査の検査数はコロナ以降に大きく減少している
| 年度 | 検査大会数 | 検査人数 | 陽性者数 | 陽性率 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2013 | 22 | 48 | 4 | 8.3% | |
| 2014 | 23 | 79 | 1 | 1.3% | |
| 2015 | 24 | 125 | 3 | 2.4% | |
| 2016 | 26 | 89 | 3 | 3.4% | |
| 2017 | 27 | 85 | 0 | 0.0% | |
| 2018 | 18 | 86 | 1 | 1.2% | |
| 2019 | 18 | 84 | 0 | 0.0% | |
| 2020 | — | — | — | — | COVID-19で大会中止 |
| 2021 | 6 | 20 | 0 | 0.0% | |
| 2022 | 4 | 18 | 1 | 5.6% | |
| 2023 | 4 | 17 | 0 | 0.0% | |
| 2024 | 4 | - | 0 | 0.0% | 人数が一覧に未記載だが、全員陰性と記載あり |
表を見ると、2013年から2019年にかけては、年間20大会前後で比較的広くドーピング検査が実施されていたことが分かります。
一方で、2021年以降は検査大会数・検査人数ともに大きく減少していることがわかります。後述のように、2023年度から大規模に簡易ドーピング検査が行われるようになり、JADAによる正式なドーピング検査は主要大会のみに絞った実施となったことが背景にあるのでしょうか。 しかし、簡易ドーピング検査が導入されたのは2023年度からであり、コロナ明けの2021年、2022年の検査数の減少は予算の都合だった可能性も考えられます。
※ 2022年度にはアンチ・ドーピング規則違反(ADRV)が1件発生しています。それは、大会会場にステロイドといった禁止物質持ち込んだ事件です。 詳細は以下をご覧ください。
立野 智宏
第27回日本クラス別選手権大会会場にテストステロン・トレンボロンといった禁止物質が大量に入った荷物を置き忘れる。
1大会あたりの常に検査人数は3-5人で、トップ選手のみが対象となる傾向は変わっていない
| 年度 | 検査大会数 | 検査人数 | 1大会あたり検査人数 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2013 | 22 | 48 | 2.18 | |
| 2014 | 23 | 79 | 3.43 | |
| 2015 | 24 | 125 | 5.21 | |
| 2016 | 26 | 89 | 3.42 | |
| 2017 | 27 | 85 | 3.15 | |
| 2018 | 18 | 86 | 4.78 | |
| 2019 | 18 | 84 | 4.67 | |
| 2020 | 0 | 0 | 0 | 大会中止 |
| 2021 | 6 | 20 | 3.33 | |
| 2022 | 4 | 18 | 4.50 | |
| 2023 | 4 | 17 | 4.25 | |
| 2020 | 4 | - | - | 検査人数のデータ無し |
2021年度からの検査数減少にもかかわらず、1大会あたりの検査数に変化が見られていません。これは、1大会あたりにドーピング検査を行う人数というものが決まっていて、2019年までは検査対象の大会が多かったということになります。2021年度からは正式なドーピング検査は選ばれた大会でしか行われず、それ以外は簡易検査で済ませるという方針となったのでしょう。
2. 簡易ドーピング検査の検査数は通常検査の10倍以上
2023年度から導入された簡易ドーピング検査は、JADAによる正式なドーピング検査とは異なり、競技結果に直接影響する判定を行うものではありません。あくまでスクリーニングとしての役割を持ち、リスクの早期把握や抑止を目的とした制度です。
導入から1年経過した2024年度は、検査大会 52 大会、検査人数 537 名と、JADAによるドーピング検査と比べても10倍以上のかなり大規模な検査となったことがわかります。
簡易検査の主な対象が全国トップレベルの選手ではなく、競技人口の中間層や新規参入層であることが読み取れます。検査対象がトップレベル選手に限られているJADAによるドーピング検査との棲み分けがなされているようです。
| 年度 | 検査大会数 | 検査人数 | 陽性疑い | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2023 | 18 | 178 | 8 | 「高濃度を示す値」8件(4.5%) |
| 2024 | 52 | 537 | 0 | 全員陰性 |
2023年度の簡易ドーピング検査では8人もの陽性疑いがあった
簡易ドーピング検査が実施開始した2023年度には178名の選手が検査を受け、ステロイド代謝物などの他の検体に比べ高濃度を示す値が合計8件確認されています。

データソース:2023年度簡易ドーピング検査報告書.pdf
8名の中にはトレンボロンといった明らかな筋肉増強目的に使用したと思われる物質が反応しておりドーピング検査としての機能を果たしている側面もありつつ、高濃度となった物質が特定できないケースが3件あり、その例がその後精密検査などが行われたのかなどは公表されていません。
簡易検査は偽陽性率が高い?
簡易ドーピング検査は、低コストで多くの選手を対象に検査できる点が大きな利点です。一方で、その特性上、検出された物質を特定できない「高濃度値」など、判定が曖昧なケースが発生する可能性もあります。
このような場合、選手はどのように対応すべきなのでしょうか。
簡易検査で陽性疑いが示されたとしても、正式な精密検査がすぐに行われなければ、時間の経過とともに体内で禁止物質が代謝・排出され、後の検査では検出されなくなる可能性があります。結果として、意図的でなくとも「検査では確認できなかった」という状況が生まれうる点は、制度上の課題と言えます。
また、過去の事例が示すように、実際には禁止物質を使用していなかった場合でも、簡易検査で疑いが生じた事実だけが残り、それを後から完全に否定することは容易ではありません。この点は、特にクリーンな競技活動を続けてきた選手にとって、大きな負担になり得ます。
こうした事情を踏まえると、簡易ドーピング検査は単独で完結させるべきものではなく、あくまで入口として位置づける必要があります。わずかでも疑いが生じた場合には、できる限り速やかに精密検査へと移行できる体制を整えることが、制度の信頼性を保つうえで重要です。
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2026-01-21
3. アンチ・ドーピング講習会の参加者はオンライン形式の導入により倍増傾向
| 年度 | 講習会参加人数(延べ) | 備考 |
|---|---|---|
| 2013 | - | 記載なし |
| 2014 | - | 記載なし |
| 2015 | - | 記載なし |
| 2016 | 989 | |
| 2017 | 1,944 | |
| 2018 | 1,880 | |
| 2019 | 2,175 | |
| 2020 | 0 | COVID-19の影響 |
| 2021 | 4,007 | オンライン受講の開始 |
| 2022 | 3,527 | |
| 2023 | 3,302 | |
| 2024 | 4,154 |
アンチ・ドーピング講習会は、アスリートに正しい知識を伝え、競技に対する意識を高めるうえで重要な取り組みです。 この講習会の参加人数は、2021年を境に大きく増加しており、コロナ禍以前と比べておおむね倍増した水準で推移しています。
この増加の大きな要因として考えられるのが、オンライン形式の導入です。 それまで大会会場などでの現地受講が中心だった講習会が、オンラインでも受講可能になったことで、時間や場所の制約が大きく緩和されました。その結果、これまで参加が難しかった選手層にも受講の機会が広がったと考えられます。
アンチ・ドーピング教育が進むことで、意図的なドーピング行為が抑制されるだけでなく、サプリメントの誤使用などによるうっかりドーピングの防止にもつながることが期待されます。検査や簡易検査とあわせて、教育面からの取り組みが強化されている点は、近年のJBBFのアンチ・ドーピング施策を理解するうえで重要なポイントと言えるでしょう。
4. まとめ。2025年度以降、簡易ドーピング検査の検査数は拡大傾向か
2013年から2024年までのデータを振り返ると、JBBFのアンチ・ドーピング施策は、単に検査の数を増減させる形ではなく、役割を分けながら進化してきたことが分かります。
近年のJADAによるドーピング検査は、全国大会や上位選手といった競技結果に直結する層を中心に、少人数・重点型で実施されています。一方で、2023年度から導入された簡易ドーピング検査は、短期間で検査大会数・検査人数ともに大きく拡大しており、より広い層を対象とした取り組みとして位置づけられていることが数字からも読み取れます。
これらの傾向を踏まえると、2025年度以降も、JADA検査が現在の運用規模を大きく変えずに継続される一方で、簡易ドーピング検査は対象大会や検査人数を中心に、引き続き拡大していく可能性が高いと考えられます。特に、講習会のオンライン化によって教育の裾野が広がっている点とあわせて見ると、検査と教育を組み合わせた予防的なアプローチ今後も重視されていくことが想像されます。
ただし、簡易検査の拡大は、検査体制の強化を意味する一方で、偽陽性や判定の扱いといった課題も併せ持ちます。簡易検査を入口としつつ、疑いが生じた場合には速やかに精密検査へとつなげる運用が維持・改善されていくかどうかが、制度全体の信頼性を左右するポイントになりそうです。
検査数や陽性者数といった数字だけを見ると、単純な評価に陥りがちですが、**「どの層に、どの手段を使ってアプローチしているのか」**という視点で整理することで、JBBFのアンチ・ドーピング施策の方向性はより立体的に見えてきます。今後も公開されるデータを継続的に追うことで、その変化を冷静に見ていく必要があるでしょう。
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