【全ドーピング違反の24%がボディビル】JADAドーピング違反データから見るボディビル競技の実態
データ分析2026年1月28日

【全ドーピング違反の24%がボディビル】JADAドーピング違反データから見るボディビル競技の実態

JADAドーピングボディビルデータ分析WADA

「ボディビルはドーピングが多い」——そう言われることは珍しくありません。しかし、それは本当なのでしょうか?印象論ではなく、実際のデータから検証してみたいと思います。

JADA(日本アンチ・ドーピング機構)は、毎年アンチ・ドーピング規則違反の決定報告を公開しています。本記事では、2015年から2024年までの10年分のJADA公開データを集計・分析し、ボディビル競技におけるドーピング違反の実態に迫ります。

データソースについて

本記事のデータはJADAが公開している各年度の「アンチ・ドーピング規則違反一覧」(PDF)から抽出しています。

なお、このデータはJBBFの簡易ドーピング検査やJBBF独自の検査結果は含まれておらず、JADAが管轄する正式なドーピング検査のみを対象としています。


1. 10年間で42件の違反——そのうち24%がボディビル

まず、全体像から見ていきましょう。

2015年から2024年までの10年間で、JADAが公開したドーピング違反は合計42件。そのうち、ボディビル競技は10件で、全体の 約24% を占めています。

年度全件数ボディビル割合
20158450.0%
20165360.0%
2017600.0%
20187114.3%
2019300.0%
2020200.0%
2021100.0%
20223133.3%
20237114.3%
202400-
合計421023.8%

この表を見て気づくのは、2015年と2016年に違反が集中しているという点です。この2年間だけで7件——ボディビル全違反の70%がここに集まっています。

2017年以降は年間0〜1件と落ち着いており、2024年度に至っては全競技を通じて違反が0件という結果になりました。これは10年間で初めてのことです。

アンチドーピング違反発生件数の推移。ボディビルの発生件数は減少傾向にあるか?
アンチドーピング違反発生件数の推移。ボディビルの発生件数は減少傾向にあるか?

ただし、この「減少」をそのまま「クリーンになった」と解釈するのは早計です。後述するように、検査体制の変化など複数の要因が絡んでいる可能性があります。


2. 競技別ランキング——ボディビルがワースト1位

では、他競技と比較するとどうでしょうか。10年間の累計で競技別に違反件数を集計してみます。

順位競技違反件数
1ボディビル10
2陸上競技9
3自転車6
4パワーリフティング3
5水泳2
5レスリング2
5カヌー2
-その他8種目8
10年間のアンチドーピング違反はボディビルが最多24%。陸上競技も同程度に違反が多い。
10年間のアンチドーピング違反はボディビルが最多24%。陸上競技も同程度に違反が多い。

ボディビルが1位という結果は、冒頭の「印象」を裏付けるものと言えます。

しかし、ここで一つ考えなければならないことがあります。それは競技人口の違いです。

陸上競技の競技人口は数十万人規模、自転車も愛好者を含めれば相当な数になります。一方、JBBFに登録しているボディビル・フィットネス選手は数千人程度。競技人口あたりの違反率で見れば、ボディビルの数字はさらに際立つことになるでしょう。

もっとも、検査数や検査対象の選定方法も競技によって異なるため、単純な比較は難しい面もあります。それでも、「ボディビルは違反が多い競技」という事実は、データからも確認できると言えそうです。


3. 検出された物質——70%が「筋肉増強ステロイド」

次に、ボディビル競技で実際に検出された物質を見ていきます。これがなかなか興味深い内容です。

WADAカテゴリ件数主な検出物質
S1 蛋白同化薬7テストステロン、トレンボロン、メタンジエノン、ドロスタノロン
S6 興奮薬2オキシロフリン
S4 ホルモン調節薬1クロミフェン
S2 ペプチドホルモン1IGF-1
手続き違反1居場所情報関連違反

S1(蛋白同化薬)が70% ——これがボディビル競技の最大の特徴です。

テストステロン、トレンボロン、メタンジエノン…名前を見れば分かる通り、いずれも筋肉増強を目的としたアナボリックステロイドです。風邪薬に含まれる成分がうっかり検出された、というような「うっかりドーピング」ではありません。

他競技との比較で見えてくること

競技S1 蛋白同化薬S3 β2作用薬S6 興奮薬その他
ボディビル70%0%20%10%
陸上競技67%0%11%22%
自転車43%29%14%14%
水泳50%0%50%0%

陸上競技も67%がS1ですが、自転車は43%、水泳は50%と、競技によって傾向が異なります。

自転車競技ではS3(β2作用薬)——気管支拡張作用や脂肪燃焼作用を持つ物質——が29%を占めています。持久系競技ならではの傾向と言えるかもしれません。

一方、ボディビルはS3が0%。求められるのは持久力ではなく筋肉量ですから、当然と言えば当然の結果です。競技特性がそのまま検出物質の傾向に表れているわけです。

クロミフェンが示唆すること

S4で検出された クロミフェン(クロミッド) は、直接的な筋肉増強作用を持つ物質ではありません。これはステロイドサイクル後の PCT(ポストサイクルセラピー) で使用される薬剤です。

つまり、クロミフェンの検出は「アナボリックステロイドを使用した後」であることを強く示唆しています。検出された物質だけでなく、その背後にある使用パターンまで読み取れるのがドーピングデータの面白いところです。


4. 【参考】WADAカテゴリ(S1, S2...)とは?

本記事で使用している「S1」「S2」などの記号について、簡単に説明しておきます。

これはWADA(世界アンチ・ドーピング機構)が定める禁止物質のカテゴリ分類です。毎年更新される「禁止表国際基準」で定義されており、選手がドーピング検査を受ける際の基準となっています。

常時禁止物質(競技会内・競技会外)

コードカテゴリ名説明主な物質例
S0未承認物質臨床開発中・承認されていない薬物実験的薬物
S1蛋白同化薬筋肉増強作用を持つステロイド等テストステロン、トレンボロン、ナンドロロン
S2ペプチドホルモン、成長因子等ホルモン分泌を促進する物質EPO、hGH、IGF-1
S3β2作用薬気管支拡張作用、脂肪燃焼作用クレンブテロール、ツロブテロール
S4ホルモン調節薬・代謝調節薬ホルモンバランスを調整する物質クロミフェン、タモキシフェン、メルドニウム
S5利尿薬・隠蔽薬体重減少、他の薬物の隠蔽に使用フロセミド

競技会時のみ禁止

コードカテゴリ名説明主な物質例
S6興奮薬中枢神経を刺激する物質アンフェタミン、メチルエフェドリン
S7麻薬鎮痛作用を持つ物質モルヒネ
S8カンナビノイド大麻由来の物質THC
S9糖質コルチコイド抗炎症作用を持つステロイドプレドニゾロン、デキサメタゾン

「ステロイド軟膏」と「アナボリックステロイド」は別物

アトピー性皮膚炎などの治療に使われる ステロイド軟膏(糖質コルチコイド) と、筋肉増強目的で使用される アナボリックステロイド(S1 蛋白同化薬) は、名前に「ステロイド」が含まれるものの、薬理作用はまったく異なります。

  • ステロイド軟膏(S9):抗炎症作用。競技会時のみ禁止で、外用薬は原則として禁止対象外
  • アナボリックステロイド(S1):筋肉増強作用。常時禁止

JBBFトップ選手の刈川啓志郎選手が簡易ドーピング検査で陽性疑いとなった際、アトピー治療用のステロイド軟膏が原因ではないかと話題になりました。

選手ニュース

刈川啓志郎選手“簡易ドーピング検査で陽性疑い”は何を意味するのか|時系列と制度の問題点を整理

JBBFトップ選手・刈川啓志郎が語った「簡易ドーピング検査での陽性疑い」。時系列整理とともに、簡易検査の仕組みや今回の騒動が投げかけた問題点を冷静に検証する。

2026-01-21

WADA禁止表について

禁止表は毎年1月1日に更新されます。最新の禁止表は以下で確認できます。


5. 2017年以降の「減少」をどう解釈するか

冒頭で触れたように、ボディビル競技の違反は2015-2016年に集中し、2017年以降は年間0〜1件に減少しています。そして2024年度は全競技で0件という結果になりました。

この「減少」は何を意味しているのでしょうか。いくつかの可能性を考えてみます。

仮説1:抑止効果が働いた

2015-2016年に発覚した違反者の処分が公開されたことで、「見つかれば数年間の資格停止」という現実が広く認知されました。

また、JBBFはアンチ・ドーピング講習会を継続的に実施しており、特に2021年からはオンライン受講が導入されたことで参加者が大幅に増加しています。

年度講習会参加人数(延べ)
2019年以前約1,000〜2,000名
2021年4,007名
2022年3,527名
2023年3,302名
2024年4,154名

コロナ禍以前と比べて参加者数は約2倍に増加しており、こうした教育面での取り組みが一定の抑止効果として働いた可能性はあります。

仮説2:検査体制の変化

JBBFにおけるJADAドーピング検査の実施数は、2021年以降に大幅に減少しています。

期間検査大会数検査人数
2013-2019年年間18〜27大会年間48〜125名
2021-2024年年間4〜6大会年間17〜20名程度

検査数が減れば、見つかる件数も減るのは当然です。

一方で、2023年からは簡易ドーピング検査が大規模に導入されています。

年度検査大会数検査人数備考
2023年18大会178名高濃度値8件確認
2024年52大会537名全員陰性

簡易検査はJADA検査の10倍以上の規模で実施されており、JADAによる正式検査は主要大会に絞り込まれる一方、簡易検査で広くスクリーニングを行う体制へと移行しています。

データ分析

JBBFのドーピング検査はどう変わった?12年分データで見る検査数・陽性率・簡易検査

JBBFの事業報告書から2013-2024年のドーピング検査データを抽出し、検査数の推移、陽性率の変化、2023年から導入された簡易検査制度について客観的に分析します。

2026-01-24

仮説3:検出を回避する手法の進化

あまり考えたくない可能性ですが、選手側が検査を回避する手法を進化させている可能性も否定できません。検査のタイミングを予測して使用を調整する、検出されにくい物質に切り替える、といった対応が行われている可能性はゼロではないでしょう。

注意

違反件数の減少は、必ずしもドーピングの減少を意味しません。検査数や検査対象の変化、検出技術と回避技術のいたちごっこなど、様々な要因が絡んでいます。

2024年度の0件という結果も、「クリーンな競技環境が実現した」とは断言できない点に注意が必要です。


6. まとめ——データが示すボディビル競技の現実

JADAの10年分のデータを分析した結果、ボディビル競技のドーピング違反には以下の特徴があることが分かりました。

  1. 違反件数は全競技中トップ(42件中10件、23.8%)
  2. S1(蛋白同化薬)が70% を占め、「うっかりドーピング」ではない意図的な使用が多い
  3. 2015-2016年に集中し、その後は減少傾向
  4. 2024年度は全競技で0件という結果に

「ボディビルはドーピングが多い」という印象は、少なくともJADAのデータからは裏付けられる結果となりました。

ただし、これはJADAの検査で「見つかった」件数であることを忘れてはいけません。検査を受けていない選手、検査をすり抜けた選手がどれだけいるのかは、このデータからは分かりません。

ボディビルという競技は、その特性上、筋肉量が直接的に競技結果に影響します。そのため、ドーピングの「動機」が他競技よりも強く働きやすい面があるのは事実でしょう。

JBBFが導入した簡易ドーピング検査や、アンチ・ドーピング講習会の拡充といった予防的なアプローチが、今後どのような効果をもたらすのか。データを追い続けることで、その変化を見守っていきたいと思います。

シェアする

あのフィットネス選手はナチュラル?

Are You Natural?では、公開情報に基づきフィットネス選手やインフルエンサーがナチュラルかどうかをまとめています。

選手一覧を見る